『六番目の小夜子』(恩田陸、新潮文庫)
難易度:ふつう
所要時間:短い
対象:学校よりもドキドキしたい人
この地方の高校には、ある秘密が受け継がれている。
三年に一度。だれかによって、「サヨコ」という名の生徒が、選ばれる。
サヨコに選ばれた彼女は、学校の運命を変えてしまう。
今年は、「六番目のサヨコ」が選ばれる年なのだ。
そこに、やってきた転校生は――「サヨコ」という名だった。
うつくしい小説を読むことほど、中学生のときに味わってほしいことはない。
この世には、面白い小説とか、わくわくする小説とか、たくさん存在しているのだけど。
「うつくしい小説」は、なかなかない。
すべてが整っていて、これしかないという書き出し、結末、登場人物。――うつくしい小説ってこういうもんなのだ、と分かった瞬間、人はどきどきしてしまう。
そのどきどきを、味わってほしいから、私は『六番目の小夜子』を、あなたにおすすめしたくなる。
この小説は、「サヨコ」という学校の伝説をめぐる物語だ。
さえない地方の高校が舞台で、ちょっとした、よくある学校の伝説とか秘密が、物語の鍵になっている。
美しい転校生。美しいクラスメイト。
うっとりした高校生活が広がっている。
だけどぶっちゃけ、こんな中学生や高校生が、そのへんにいるわけじゃない。この作者の恩田陸さんという作家の本には、やたらきれいでうつくしい中学生や高校生が登場するんだけど、「こんなにきれいな学生がいるわけないじゃないか!」と私は中学生の時憤っていた。
が、今にして思う。あれは、「うつくしい小説を読む」という体験をしていたのだな、と。
小説は、リアルをうつしだすものなんかじゃない。
小説は小説のなかで、うつくしい世界をつくりだすことができるから、みんなこんなに好きなのだ、と。
ぜひこの意味を分かってほしいから、私はあなたに『六番目の小夜子』を読んでほしいと思う。
できれば、中学生か高校生の時に読んでほしいんだよなあ。だってそしたら、大人になって読み返しても、さらに楽しめるじゃん。
(管理者追記)
文筆家・書評家の三宅香帆さんよりご寄稿いただきました。
『六番目の小夜子』はKindle版が存在します。