『そして五人がいなくなる 名探偵夢水清志郎事件ノート』
所要時間:一冊だけだと短い
難度:ふつう
対象:いま退屈している人
『そして五人がいなくなる 名探偵夢水清志郎事件ノート』という本は、私が人生でもっとも最初に「すっごい面白い」と感動したミステリだ。
青い鳥文庫の、かんたんに読める本に見えるし、まあ実際かんたんに読めるのだけど。それでも、びっくりするほど面白かった。
「夢水清志郎事件ノート」というシリーズの、第一冊目。
小学生の私にとって、こんなに面白いミステリはなかった。
あなたが知ってるかわからないけれど、この世界には、「ミステリ」というジャンルが存在する。
名探偵ホームズ。明智小五郎。コナン。ミス・マープル。ポワロ。……ひとりくらいは、名前をきいたことがあるんじゃないだろうか。
とつぜん現れる「謎」。殺人事件に失踪事件、日常の不思議から非日常の恐怖まで。
「名探偵」はその謎を解く。
そこには、さまざまなトリックがしかけられている。「名探偵」はそれらにひとつの「解答」を与えるのが仕事だ。
名探偵があらわれて、謎を解き、事件を解決する――これが「ミステリ」のひとつのメジャーなフォーマットだ。
というと、なんでわざわざ「謎」を本の中で読まなきゃいけないんだろう? と不思議に思うんじゃないだろうか。
たとえば、ふつうに生きていたら、人が殺される場面なんてあまり出会わない。ニュースの中の世界の話だ。
なんでわざわざ、大人は本のなかでミステリを読むのか。
なぜだと思う? 私はこう思う。
みんな、退屈でしかたないからじゃないか、と。
もしあなたが生まれてきて一度もミステリを読んだことがなかったら、きっとこの世は退屈で仕方ないんじゃないか、と勝手に私は心配してしまう。
私はずっと学校が退屈で、基本的には夏休みも退屈だった。
楽しそうにしてないと友達にも親にも心配されるから、楽しそうにしていたけれど。でもやっぱり、学校はひまだった。
でも、夢水清志郎シリーズに出会えてからは、すこし、退屈じゃなくなった。
本のなかで事件が起こったり、解かれない謎があったから、思っていたより、退屈せずにすんだ。
ミステリは、退屈な時代に読むべきなんだ、と思う。
いま、退屈でしょうがない人に、ぜひ読んでほしい。
この本を一冊読んでしまえば、あとはシリーズをずっと追いかけている間は、退屈せずにすむ。
図書館へ行くだけで、ひまじゃなくなる。
(管理人追記)
文筆家・書評家の三宅香帆さんよりご寄稿いただきました。
『そして五人がいなくなる 名探偵夢水清志郎事件ノート』はKindle版が存在します。Unlimitedのユーザーであれば無料でご覧になれます。